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大気汚染調査用のモニタリングステーションが足りていない、という話

大気汚染は言わずもがな世界中で問題となっています。

有名なところでは、中国の北京では2015年だけでレッドアラートが2度発生しました。
Smog in China closes schools and construction sites, cuts traffic in Beijing

学級閉鎖、工事の無期限停止、車両の限定的な走行など、政府は対応に追われているのが現状ですが、そもそも根本的な問題が中国のガソリン内の汚染物質含有量の制限が甘過ぎることにあり、それを他国並みに変えることによる経済的なネガティブインパクトが計り知れず、結局のところ抜本的なアクションが全く起こせないという事情を考えると、本当に根の深い、解決困難な問題であることがよーくわかります。

またインドのデリーでは昨年すでに多くの規制が開始しており、デリー中心部に車両が入るための通行料は$11(デリーの物価は日本の感覚からすると約1/3であることを考えると約4000円の通行料!)と非常に高額に設定されました。
India’s choked capital starts ‘pollution toll’ for trucks

他にもすでに以前から交通規制を行っている地域としてはイギリスのロンドンシンガポールなどが挙げられます。

2015年というと特に注目されたニュースはインドネシアの山火事でした。その影響でシンガポールやマレーシア、さらにはタイや台湾までも深刻な大気汚染が報告されています。
Indonesia begins evacuation of infants from haze-affected regions
Indonesian Fires Create “Hazardous” Levels of Air Pollution in Singapore

またあまり世間的には注目されにくいですが、チベットの山奥では麓での野焼きによって発生した汚染物質が地形の関係上集まり易い地域があり、そのエリアでの農作物への被害が深刻視されています。またアルバニアなどのように車の老朽化に伴い排ガス汚染レベルが一向に下がらないという事情を抱えた国もあります。

なお前述のロンドンやフランスのグルノーブルなどでは地形の関係上接地電離層(蓋のような電離層)が上空にできやすいという気象条件があり、それもまた発生した汚染物質が霧散せずに都市内に留まってしまう一要因だと言われています。


私たちは多かれ少なかれ大気汚染にさらされて生きています。このような状況で情報源として頼りになるのは政府や地方自治体が配備しているモニタリングステーションにおける測定値です。

例えばこんな便利なサイトがあります。世界中のオフィシャルなモニタリングステーションの測定値を見ることができるまとめサイトです。
http://aqicn.org/

Screen Shot 2016-01-13 at 10.32.55 AM

このサイト、成り立ちがちょっと面白くて、中国のアメリカ大使館が運営しています。実は北京における大気汚染が深刻視され始めたきっかけがなんと在中アメリカ大使館員によるTweetだったそうです。

そこら辺の経緯について書いてある記事↓
How the US Embassy Tweeted to Clear Beijing’s Air

結果、中国政府は2015年に北京周辺に1500ものモニタリングステーションを追加建設したと報告されています。


さて我らが日本の話に戻すと、上記の図を見る限りでは東京周辺のモニタリングステーションの様子ですが、たくさんあるように見えますよね。
実際世界の都市と比較すると多いほうだと思います。

いやぁ、日本は素晴らしい素晴らしい。

一方ではそれで良いと思います。

モニタリングステーションだって安いものではないし、それらを設置する意思と労力には賛辞を送るべきでしょう。

だがしかし、

コトは少々本質的に考えるべきだと指摘したい。

というのも、一般に大気汚染物質の出処は主に車の排気ガスだと指摘されています。特にディーゼル車ですね。当然、それぞれの物質によって出処は微妙に異なりますし、その比率も異なります。人為由来のものもあれば自然由来のものもあり、それらの比率は地理的な事情によって大きく異なります。なのであくまで、一般的に言えば、であることを断っておきます。

排気ガスの影響評価については様々な研究がなされています。
例えば以下のスイスで行われた実験では、住居がメインの大通りから100m離れるごとに肺疾患の発症率が12%下がるという結果が報告されています。
Living near Main Streets and Respiratory Symptoms in Adults
つまり周囲に車通りの多い道路があるかどうかは大気汚染の評価において非常に大きな影響をもたらすわけです。

また素晴らしき感度敏感なチャリンコ乗りの友人いわく、
青山通りを下って行くと渋谷に来たところで目が痒くなる」
とのこと。

これは非常に理屈に適っています。汚染物質は重さを持っています。その比重は空気全体の平均値よりは高いため、比較的下に溜まりやすいです。当然風に巻き上げられたり対流があったりするので全てがそれに従うわけではありませんが、あくまで傾向としては「高きから低きに流れる」で間違いありません。
青山通りをご存知の方ならお分かりの通り、表参道方面の東側から渋谷方面の西に向かって下っています。比較的きつめの下り坂です。そして渋谷は「谷」の字の通りに谷間にあります。渋谷を通り過ぎた池尻大橋方面に向かって、今度はこれまた急な上り坂です。
つまり谷間である渋谷駅周辺には汚染物質が溜まりやすいだけの十分な理由があります。

PM2.5やNOx, SOxなどの汚染物質が目に入った場合の感じる程度には個人差がありますが、大抵は水分が奪われることによる乾燥と物理的な衝突による角膜損傷です。どちらにせよ、症状としては目が痒くなるで大体良いかと。つまり目が痒くなることは汚染物質をキャッチしたサインです。

私は非常に興味深いなぁと思い前述のオフィシャルモニタリングステーションのデータをチェックしてみました。しかし、、、

Screen Shot 2016-01-13 at 10.28.46 AM

なんと、青山通り、六本木通りを見渡しても、唯一のモニタリングステーションは道玄坂を登りきって旧山手通りすら通り過ぎた西郷山公園のあたりに1点あるだけだということがわかります。土地感のある方はわかると思いますがここら辺は高台です。
したがってさきほどの論理からわかるように高台は比較的汚染物質の量が少なくなる傾向があるはずです。

ちなみに西郷山公園はこんなところです(地元)

私の疑問は紐解かれなかった。。。

そして、素晴らしき友人はこんなことも言っていました。

皇居の周りって車通りが多い割に空気が良い。反面東京駅方面に一歩入ると一気に空気が悪くなる。空気中の何かが光を遮ってるのがわかるレベル」

これもまた興味深い。

多くの大気汚染物質は水溶性であったり水で簡単に流し落とすことができたりします。例えばSOxなどは紫外線によってイオン化された状態で待機中をふわふわしていたりするので、それがOHイオンと結びつくことで硫酸(H2SO4)や亜硫酸(H2SO3)ができるんだそうで。

ということはお堀は実は有効な大気汚染物質収集マシーンなのかもしれません。その反面、お堀の逆の東京駅側は高いビルが立ち並んでいます。当然空気の通りは悪いです。不運にもお堀の逆側に霧散した汚染物質たちは、ビルに阻まれ拡散することもできず、そこに留まり、通行者や車両に巻き上げられ、また落ちて、、、狭いエリアで日々それを繰り返しているのかもしれません。(なんか切ない)

さて、本件、大方の予想どおりながら、

Screen Shot 2016-01-13 at 10.44.20 AM

東京駅はおろか、お堀はおろか、、、もう何の比較にも役に立ちません。

これがオフィシャルモニタリングステーションの限界でしょうか。
しかし世の中の研究者が使うデータというのは、そのほとんどオフィシャルモニタリングステーションのデータからだと言います。なぜなら独自でデータを収集するには非常に大きな費用がかかるからです。


それでは詳細で高メッシュなデータは世の中には全く存在しないのか?というとそんなことはありません。(希望が!!?)


例えば放射能の領域ではSafecastという非常に優れたプラットフォームがあります。
東北の震災の際にMITメディアラボ所長の伊藤穣一さんが発起人となって立ち上げたプロジェクトで、こういうユニット($500)

を買って、ボランティアの方々が各々の意思でデータを取ってデータベースにアップデートしています。
この手のプロジェクトにしては継続性があり、未だにデータのアップデートがあるという希少な事例だと言えます。

しかしながらデータの詳細を覗いていくと残念ながら信ぴょう性の部分で疑問を持たざるを得ません。というのも例えば測定日時のデータなどは事実上の「自己申告制」です。
なのでデータベースにアクセスすると2028年1月1日とかの謎のデータが発見できます。
これなら明らかに間違いだとわかりますが、ということは裏を返せば「今日の測定値」だとしてアップデートされているデータも実際のところはいつのデータだかわからない、ということなのです。。。

ここら辺がボランタリーの限界なのでしょう。義務が無ければ責任も無いので。
最近のバージョンはスマホ連携して管理できているようなので向上に期待したいですが、依然ボランタリーに依存する以上、こういう信頼性の問題は消えないでしょうね。

Air Castingなんかも全く同じことが言えます。
このデータベースもデータ量は揃っているのですが、例えば「MQ-131を使った人のデータ」というような形でデータがひとくくりにされています。MQ-131というのはオゾンを測定するガスセンサーのことですが、センサーを多少かじった人ならお分かりの通りに、「誤差をいかにして抑え込むか?」「もしくはどのように補正するか?」というのは非常にノウハウと技術と努力が必要な領域で、電源電圧の管理、温度補償、空気流量の管理、振動、などなど、そういう管理・設計が『しっかりしている人のデータ』と『しっかりしていない人のデータ』をひとくくりにしたら、結局のところ実際に何が起きているのか全くわからなくなるということなのです。つまりそんなデータに価値は無いのです。
もっと言ってしまうと、この手の化学変化による熱の発生と抵抗値の変化を利用したセンサーは大抵調整用の可変抵抗が入っています。この可変抵抗をちょいっと回すと、、、値なんてすぐズレてしまうのです。
データの分離は当然可能です。ユーザー名や機材のIDに紐付けてデータをバラバラにするわけです。しかしそうすると今度はデータ量が非常に少なくなってしまい役に立ちません。

非常にアンバランスさを感じずにはいれません。

かたやオフィシャルなしっかりとした値だが地理的解像度が低く、
結局「Right Here, Right Now」の値は分からない。

かたや解像度の細かいデータは取れているが、
データ更新頻度は保障されず、そのデータ自体の信頼性も怪しい。

我々は真に信頼でき、かつオンデマンドに「私の周り」の状況を知る情報を得ることはできないのでしょうか?


こんな悩みと葛藤から生まれた私のプロジェクトが以下です。
ご興味のある方は下記slideshareの最終ページに連絡先がありますのでコンタクトください。