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『魔王』『モダンタイムス』 ー 伊坂幸太郎の小説を読んで感心したこと
Categories: オハナシ

先日、飛行機移動のお供にと思い友人のススメで
伊坂幸太郎魔王を読んだ。
そしてそのままモダンタイムスも読んだ。

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正直なところ伊坂幸太郎は全く読んだことがなくて『なんか売れてる人』くらいの認識だった。
しかし読んでみると引き込まれ、スイスイと読んでしまう。

ちょっと以下に私が感じたことを整理してみよう。

まず感心したのが「自らの身を切る」「内臓をさらす」ような書き方ではないなぁという点だった。
具体的に言うと、
・本からの引用や影響を受けた部分が多そうだった
・時事問題からネタを引っ張ってくる(登場人物の誰かの意見が多分作者の意見)
・複数の視点を入れることで主張を押し付けない

つまるところ「巧いなぁ」と感じた。

当然、私は個人的には作者自らの絞り汁で作ったような作品が大好きだ。
これは小説だけではなく映画、マンガ、その他諸々全般に渡って言える。

しかし、実際のところそうそう毎回身を切れないし、

そして重要なことだが、

身を切ったからといって面白いとは限らない。
むしろ難解になる可能性のほうが高いし、大衆に好まれる確率はみるみる激減だ。

内臓なんて晒されたらほとんどの人間がその目を背けてしまう。
しかし時事問題ならむしろ乗り出すほど
それぞれ言いたいことが山ほどあるものだ。

ツカミはOK。

ネタ作りを一般的なところから持ってきて、
そして
ちょっとした異常性をスポイト2、3滴程度たらすカンジだ。

魔王なら「特殊能力」「犬養」

モダンタイムスなら「恐妻」「ゴッシュ」
※「近未来」はさほど際立った異常要素ではないように思える。「設定」の範囲内


さて、こんなところで既に伊坂幸太郎の作品スタイルはだいたい語れてしまっているように思う。

この書き方はシンプルが故に非常に書きやすいし多作になるのも簡単だ。
そして読みやすく、広く大衆向けで、みなの興味をそそり、飽きさせない
そして産みの苦しみは比較的小さい

まさに職業作家というカンジを受ける。

そして東野圭吾のミステリーのように「品質を低めに」しているわけでもない。
※東野圭吾ファンには申し訳ないが私にはそう思える(わざと解きやすい謎にしている、と)
物語のコアとなる内容については調べるなり
本を読んで影響を受けるなりしてきちんと引っ張ってきているように思われる。

ふーむ。

ちょっと伊坂幸太郎の作品スタイルの話とは逸れ一般論に傾倒していくが、
やはり大掛かりなミステリーを仕込む作業というのは極めてタフなものなのかもしれない。
西尾維新のように毎回尖った(ぶっ飛んだ)キャラを作り出すのもそれも大変な作業に違いない。
ミステリーもキャラも、確かに多大な『産み』を必要とする作業だ。
手を抜くとたちまちくだらないクオリティになる。

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それに反して、現存する問題や事件、それらをベースにして
そこにスポイトで『異常』を2、3滴。そうすることで物語として転がる。
この手法は何度感心しても足りないくらい効率的かつ合理的なものだ。

ミステリーやキャラは、その『異常』を軸にボチボチと肉付けしていく
飾りでしかない。


そして主人公は大抵共感型で読者の視点の代わりをする。
異常性を少なめに抑えるのもその『共感』のハードルを下げるためだろう。

文章的には特殊で秀逸なところはなく、読みやすさとテンポを重視しているように思える。
『これ見よがしな難しさ』は無しだ。(例えば西尾維新が読みにくいと言う人は山ほどいるだろう)

『異常』についてだが、確かに大きな異常があると物語にグッと興味が湧く。
それだけでツカミとしては十分な役割を果たしてしまっている作品も数多くあることだろう。
しかし、でかい異常性は乗りこなせるかどうかが不確実だ。
例えば舞城王太郎原作の『バイオーグトリニティ』はかなり世界観を特殊に振っているが

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あちこちアンバランスだったり納得感がなかったりする。
掴みはいいんだけどどういう方向性に落とし込むかが微妙。
目はひくんだけど最終的に期待はずれになる可能性がある、ということだ。

山田悠介の作品なんかもそうかもしれない。
彼は『インパクトだけ』で引っ張りきるからあれはあれで作風だけど
私意だが正直あまり感心しない。


さて、伊坂幸太郎だが、大変楽しませてもらっている。
最近他に個人的に非常に楽しませてもらっている作者というと、
例えば貴志祐介

『悪の教典』『ダークゾーン』はささっと読めたが
『新世界より』はちょっと苦戦する
それは世界観の特殊さが物語自体の進行や深堀りの
ちょっとした足かせになっているからではないかと思われる。
最初ダークゾーンも若干脱落しそうになったしなぁ。

そういう意味では『入りやすい作り』をしているのは明らかに伊坂幸太郎の方だ
しかし私個人の中でのやっぱり貴志祐介の方がグレードは上かなぁ。

やはり貴志祐介の作品の方が産みの苦しみ
作者から切り取った汚さが作品内に見え隠れするからだ。