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「骨伝導ヘッドフォンってどうなの?」から始まるオーディオ談義【その1:音が聴こえる仕組み】
Categories: No Music No Life


先日、友人とこんなやり取りがあった。

「骨伝導のヘッドフォンってどうなの?」

いい話題だ。腕が鳴る。

ちなみに骨伝導ヘッドフォンというのはこういうやつね。

耳の中に入れるんじゃなくて耳の近くに『あてる』というヘッドフォン。

さて、順を追って説明していきたい、

のだが、

しかし、きっちりとココを語るためには、
様々なオーディオシステム、ひいては音響工学の基礎について、まずは語らなければならない。

ぜひいい機会なので以下に私の知識、経験と見解をまとめてみたい。

しかしとりあえずツラツラと書き始めてみたところかなりの文量、
そして内容もほっといたら四散してしまいそうなので

ちゃんとまとめて何回かにわけて書くことにする。

とりあえず第一回。

なお、より一層深く音響工学と聴覚について知りたいヒトは
ムーアの聴覚心理学概論がひじょーにオススメな書籍だ。

私のポストをきっかけにちょっとでも興味を持ったらぜひ読んでみて欲しい。


さて、今回はまさに基礎

音の聴こえる仕組み

について整理しよう。

まず音の聴こえ方、すなわち

骨導と気導

について。

言葉だけを説明しておくと、両者読んで字のごとく

骨導は「を伝わって聞こえる音」、
気導は「空気を伝わって聞こえる音」だ。

まぁ普通は『音』っていうと大抵『気導音』のことを言っていると思う。

物理の授業でやったひとも多いと思うが、音というのは空気の疎密波のことだ。

疎密

空気というのはいろんなものが混ざって浮いてるような状況で、
ものが振動した時にその『浮いてるものたち』があっちに押し出されたりこっちにひっぱられたりすることで
バランスが崩れて疎密ができる。

この『疎密』が別の言葉でいえば『音圧』だ。

上図のような状況で板をある周期で左右に動かすことで音として聴取可能な疎密波を作ることができる。



さて、

人間の

耳の構造

ってざっくり模式的に書くとこんなカンジ。

耳の構造

さきほど説明した『気導音』というのは、
その疎密振動の中で人間の鼓膜で受信可能な範囲の周波数の振動のことだ。
周波数については別ポストを参照して欲しい(看護師の妻が言う「周波数って?」)

さて、上記の図に基づくと、
空気の疎密振動は鼓膜で検知され、耳小骨を含む骨たちへと伝達される。

一方、『骨導音』について。

骨導とは主に身体で感じたフィジカルな振動のことだと言える。

さて、それはその可動個所から骨、関節を通り、同じく耳小骨で先ほどの気導音とミックスされる。

骨同士って関節でゆるーく繋がってるからある程度の振動は伝搬する。
首とか鳴らした時の音は骨導と気導が混ざってると思っていいだろうね。

そしてその後、蝸牛基底膜に敷き詰められた神経細胞が事細かに音をセンシングするとされている。

つまりこの一連の流れに寄ると、

人間は実際のところ骨導と気導の区別はつかないと考えられる。

骨導ヘッドフォンは骨導を使ったもので普通のヘッドフォンとは異なるが、
まるで普通のヘッドフォンのように音を聞くことができるのは以上のような理屈だ。



よく
外耳、中耳という言葉は耳にすると思う。

外耳は耳介と鼓膜から耳小骨その他の骨までのこと、
中耳はそれ以降の内部、主に神経のことだ(かの有名な三半規管とかも含む)

外耳にトラブルがあった場合のサポート方法として骨導イヤフォンが使われることがある。
骨導は中耳が正常であれば問題なく聞き取れるからだ。

ご老体向けの補聴器なんかでも骨導を使ったものをよく見かける。

他に骨導が使われるメジャーなケースは『騒音化でのインカム』だ。

工事現場とか周囲が恐ろしくうるさい状況では普通のヘッドフォンが役に立たないことがある。
この現象を

マスキング

という。

マスクかぶされて見えなくなっちゃった、という意味だ。

周波数軸上でイメージを書くと、

マスキング効果

でもここでひじょーに純粋な疑問があがるだろう。

「それって別に気導でも骨導でも関係なくね?」

まさにその通りなのだ。

しかし実際は
気導から恐ろしいほどの騒音が入り込んでくる場所でも骨導からの音は弁別して聞き取れる。

ここからは私見になるが、これはとあるいくつかの未解決の現象が影響しているように思える。
ひとつは

カクテルパーティー効果

パーティーのような騒がしい場所で録音した音声から個別の会話を聞き取ることは非常に困難だが、
その場では何の問題も無くお互い会話ができている、という不思議な現象のことだ。

これは人間が状況に合わせて「何を聞き取って」「何を聞き取らないか」というフィルタリングができているのではないかと言われている。
周波数特性をアジャストし、神経細胞においてもしくは脳内の処理において「聞きたい音」「それ以外=騒音」の分離を行っているということだ。

しかし未だによくわかっていない部分が多い。

そしてこの「周波数特性で分離」という理屈にはいささか無理がある。

なぜなら『騒音』というものは一般に広く周波数範囲をカバーしているからだ。

人間の声ってだいたい数百Hzから数kHz程度だけど、
例えば車に乗っている時を想像すれば、タイヤと路面の擦れる音、車体の風切り音、エンジンの吹き上がる音、様々な音のミックスによって『騒音』は構成されている。

つまりほとんどの周波数の音は『マスキング』されてしかるべきなのだ。

でも会話はできる。

ここで

私見

を広げよう。

このカクテルパーティー効果を実現している人間の能力として以下の2つを可能性として挙げたい。

ひとつは
人間は状況に応じて「聞き取りたい音の方向」「聞き取らない音の方向」を調整できる
という可能性。

そしてもうひとつは
人間は実は気導と骨導を巧みに聞き分けることができている
という可能性だ。

どちらかかもしれないし、両者のミックスかもしれないし、シナジーかもしれないし。

しかし私は後者をけっこー信じている。

なぜなら身体で感じる音楽ってナニか別物があるような気がしている。

ライブで感じる『リアル』な迫力、クラブでスピーカーの真ん前でひたすら4つ打ちに酔いしれる高揚感、

それってなのかよくわからない。

これが、身体で音楽を聴くということなのか、それともただの妄想か。



ロマンがあると言えばそうで、バカげてると言えばそのとおりだ。

しかし、だからこそ、こういう技術と物理現象の追求というのは面白いのだと思う。


さて、

一方、前者の「方向の聞き分け」すなわち『定位』についてはしっかりと学術的にも確立されているひとつ大きなテーマになるので次回に続けてまとめることにする。

今回はこれにて。


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